水木しげる氏

水木しげる著 本日の水木サン 大泉実成著 草想社

ぼくの小学校の頃は、入り口に「奉安殿」という、小さな建物があって、
学校のゆきかえりに、頭を下げて通らねばならなかった。
ぼくは朝寝坊だったから、よく遅れて小学校にゆく。
すると、かけ足で「奉安殿」の前を通り過ぎ、頭を下げるのを忘れて教室に入ることがあった。
それを校長先生が見ていて、よく注意されたものだ。
子供心に、複雑なものが入り口にあるなあ、と思ったものだった。

その次は軍隊だった。
「天皇陛下」と叫ぶ場合”気を付け”をしなければならないのに、
それをしなかったというので、ひどく殴られた。
南方の最前線に行ったとき”陛下”から頂いた”小銃を落とした”というので、
半殺しの目にあった。
その頃は、何でも「天皇陛下」という名でいじめられた。

昭和から「平成」になって、なぜかぼくの心もヘイセイ(平静)になった。
それは、あの戦争への「やり場のない怒り」から、開放されたような気になったからだろう。
戦争中はすべて天皇の名ではじめられ、兵隊もその名でいじめられたものだから、
ついやり場のないイカリを、天皇にはわるいけど、なんとなく無意識に「天皇」にむけていたのだった。
それがなくなってしまったのだ。

大久保(編集者)
先生は勲章(1991:紫綬褒章、2003:旭日小綬賞)をもらった際に実物の天皇に会っているでしょう。
そのときはどんな感じがしました?


水木
いやあ、あの天皇ってのは他人に頭を下げて人をアリガタがらせる演技ってのが、
すごくうまくってねえ。最高でしたよ。あの時は。
へっへっへっ

大久保
なるほど。
水木さんは天皇制そのものについては何か意見はありますか?

水木
(天皇制については)ど〜だっていいですけどね。
ただ昔みたいに天皇制ってのが拡大解釈されて軍部が利用して、みたいのはいやで‥‥。
だけど実際に会ってあの人の「挨拶さの上手さ」を見たら、
やっぱりこういう人はいなきゃいかんのかなあ〜、と思いましたのですね。
日本人は昔から「大国主(おおくにぬし)」じゃないが、
「池の主」とか「森の主」とかいって、何かの 「主(ぬし)」という
心のよりどころみたいなものが好きな国民だ。
そういう意味において、日本の一番古い家柄である「天皇家」が、「国の主」として、
やさしく国民を見守ってくださるというのは、決して悪い制度ではないと思う。
愛国心があまり強くないと思っているぼくでも、ラバウルから日本に帰る際、
海から富士山を見たときは、「日本に帰った」と思い、「日本人」だと思った。
日本人の中心である「主」としての天皇はかけがえのない存在であると思う。
ただ、あの「戦争中の主」は、ぼくには恐ろしかった。
「カミサマ」であらせられるより、「人間」であらせられる方が、われわれには好ましい。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

産経皇室ウイークリー(201)
2011.10.15 07:00
天皇、皇后両陛下が主催される秋の園遊会が13日、約2千人を招き、東京・元赤坂の赤坂御苑で開かれた。
天皇陛下と、サッカー女子ワールドカップ(W杯)で優勝した日本代表「なでしこジャパン」の
佐々木則夫監督・沢穂希主将とのやり取りは当日の記事で詳しく書いたので、
ウイークリーでは、漫画家・水木しげる(本名・武良茂)さんと皇室の方々との「お化け談義」を紹介したい。
「ゲゲゲの鬼太郎」で知られる水木さんに陛下は「あの、テレビで、『ゲゲゲの女房』を…」と、
水木夫妻の自伝小説のテレビドラマを見ていたことを明らかにされた。
陛下は「あれを見ていると、絵を描くのは大変なことですねえ」と述べられた。
終了後に報道関係者に囲まれると、“水木節”が全開に。「両陛下だから特別の気持ちですね。
天皇陛下は日本に一人しかいないからね。一人しかいない人というのは珍しいから…」
といった調子で記者たちを煙に巻き、妻の武良布枝さんに「あんまりふざけないで」とたしなめられる場面があった。
最もインパクトがあったのは、「いやぁ、天皇家はお化け好きですよ」の一言。
「根っからのお化け好き。近づいたときに感じます」と、確信した口調で続く水木さんの言葉に、
今度は布枝さんも「いろんな妃殿下が、みなさん関心がおありのようでした」。さらに、
「ゲゲゲの鬼太郎」などの作品についても
「礼宮さま(秋篠宮さま)は子供のときから関心があったとおっしゃってました」と同調した。
水木さんと皇族方との会話では、常陸宮さまが「カッパは妖怪ですか?」と尋ねられているのが記者の耳に入った。
晴れやかな園遊会の場で妖怪話に花が咲くのは、長い歴史の中でも珍しいことだろう。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/111015/imp11101507010001-n1.htm

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水木しげるさんがお亡くなりになった際には天皇陛下からご香典があった

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