天皇訪中秘話


「車の速度下げて」と両陛下=上海総領事に三つの打診−92年の天皇訪中秘話
戦争という不幸な歴史が横たわる日中関係の大きな転換点となった1992年の天皇、皇后両陛下の訪中で、
両陛下が中国の人々との「心の触れ合い」を願い、
事前準備のため上海を訪れた手塚英臣侍従(当時)を通じて日本の蓮見義博上海総領事(同)に対し、
視察の車の減速など三つの要望を内々に打診されていたことが分かった。
両陛下の車に同乗した蓮見氏(80)が、20年以上経過したのを機に初めて取材に応じ、詳細を語った。

◇予想外の歓迎30万人
「両陛下は親善の実を上げたいと思っている。警備上の問題はあろうが、(上海市中心部を視察する際に)
両陛下が歓迎に心からお応えできるよう車のスピードを下げてほしい」。
蓮見氏によると、これが要望の一つだった。
中国では歴史問題に起因した反日感情も強いため、安全上の懸念もあって、両陛下の車は国賓の慣例に基づき
時速30キロ以上で走行する予定で、北京ではかなりのスピードで駆け抜けた。
上海でも同様となるはずだったが、両陛下の要望を受けた蓮見氏の対応により、
訪中最後の夜となった92年10月27日、車は時速10キロ以下の停車寸前まで減速。
沿道では30万人以上の市民が両陛下を歓迎する予想外の光景が見られた。
「(沿道に)市民を動員しないでほしい」。両陛下の意向として二つ目に打診されたのは、
真の触れ合いの気持ちを伝えるため、市民を組織する中国独特の歓迎方式を取らないことだった。
また、天皇陛下は招待側の黄菊上海市長(当時)と、皇后さまは市長夫人と、
それぞれ別の車に乗るのが外交儀礼だが、「両陛下が一緒に乗り、総領事も陪乗(同乗)する形に
変えてほしい」という三つ目の要望も特別に出された。
蓮見氏は同乗を求められたのは両陛下から信頼されているからだと感じ、「光栄な使命感」を強く意識した。
「両陛下はお二人で中国の人々に親善の気持ちを伝えたい考えが強く、
時速30キロ以上ではそれが実現できないのだと理解した」。
そう回想する蓮見氏は、誰にも相談せず徐行運転を決意。前を進むパトカーからは無線で
「早く来い。何をゆっくりしているんだ」と催促が入った。
「ゆっくりさせてください」と蓮見氏から両陛下の気持ちを伝えられた助手席の中国側護衛長も納得し、
徐行を続けた。
沿道には「日本の天皇が来る」と伝え聞いた市民が押し寄せ、笑顔で「歓迎、歓迎」と大合唱。
「笑顔の中に心からの歓迎の気持ちが表れていて大丈夫だと自信を持った」と蓮見氏は語る。
両陛下は一人一人に丁寧に手を振られ、最後には市民が車窓から50センチまで接近した。
車中の皇后さまは「ずいぶんたくさんの人ですね」と驚いた。

◇「笑顔もて」と歌に
「笑顔もて迎へられつつ上海の灯ともる街を車にて行く」。
天皇陛下は、ライトアップされた上海市内の繁華街・南京路を通った際のお気持ちを歌に詠んだ。
両陛下は訪中15周年の2007年12月、蓮見氏ら訪中に尽力した関係者を茶話会に招いた。
皇后さまはこう述べた。
「あの沿道で、親たちが抱え上げる小さい子供の笑顔が車窓近くに何人も見えたときには、
日本と全く変わらない歓迎の様子に、日本人かと思ったほどです。日本と中国はやはり同じ文化だと知りました」。
(2013/10/28-15:15)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201310/2013102800413

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