殿下と妃殿下のレストラン―「シェ松尾」自伝

殿下と妃殿下のレストラン
―「シェ松尾」自伝 松尾幸造 新潮社 (2001/11)
一九九三(平成五)年六月四日―。この日は、私にとって生涯忘れられない日です。
夕刻、一人のお客様が店にいらっしゃいました。痩身白髪、温和な話し方をされる上品な紳士です。
紳士がゲストの方より早く店にいらっしゃるのは珍しいことでした。
いつもは―なにぶんにも要職にあってご多忙を極めていらっしゃる方ですので―
たとえお相手が外国の大使の方であっても、遅れて店にお着きになることがほとんどだったからです。
そしてお食事の間も常に緊張感を漂わせ、時には眉間に皺を寄せ、
険しい表情をお見せになることが珍しくありませんでした。
ところが、この日は、他の誰よりも早くお着きになり、
まるで別人のように穏やかな表情をお見せになっていらっしゃったのです。
お嬢様さんとご家族のご到着までは、まだ時間がかかりそうでした。
マスコミを「まく」のに思いの外時間がかかっていたためです。
ご家族が全員揃われるまで、結局小和田氏は一時間ほどお待ちになることになりました。
マスコミの追跡は思いの外厳しかったようです。
その間、私が小和田氏のお話し相手をつとめさせていただくことになりました。
小和田夫人、お二人の妹さん、お祖父様お祖母様。
やはりマークが一番厳しかった雅子様がお着きになるのが最後でした。

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