皇后さまのピアノ、眞子さまの手話

(皇室トリビア)皇后さまのピアノ、眞子さまの手話
宮内庁担当 多田晃子、島康彦
2016年9月8日14時48分

「どうしましょう。困りました」
いつも優雅で冷静な皇后さまが珍しく動揺したように見えました。
8月27日、静養中に訪れた群馬県草津町で開かれたワークショップで、ピアノレッスンをしていた時のことです。
練習曲として予定していたリスト編曲のシューベルト「セレナード」が、
行き違いでレッスンの相手2人に伝わっていなかったことが発覚したのです。
当然、2人の手元に楽譜はありません。現場にいた侍従や関係者はオロオロするばかり。現場に緊張が走りました。

すると、皇后さまは自身の赤い花柄模様の楽譜を差し出し、こう続けたのです。
「これのコピーを取れば……」

皇后さまのとっさの機転でした。関係者が楽譜のコピーに走った後も、
迷惑をかけた2人に流暢(りゅうちょう)な英語でコミュニケーションを取る皇后さま。
さらに、レッスンの模様を取材・撮影するため待機している報道陣に向かって
「ごめんなさいね」とおっしゃったのです。
后さまからの思わぬ気遣いに、報道陣からは驚きと恐縮が相まった笑いが起き、現場は一瞬にしてなごみました。

楽譜のコピーが届き、練習を再開したのもつかの間、皇后さまの演奏の手が止まりました。
楽譜が一部、抜け落ちていることがわかったのです。
続けざまのアクシデントに皇后さまも「どうしたんでしょう」と思わず苦笑い。

しかし、すぐにレッスン相手の楽譜を確認する心配りを見せました。
どんな時も相手への気配りを忘れない皇后さまの人柄が表れたシーンでした。

皇后さまのピアノレッスンは、夏の静養中の恒例となっています。
皇后さまの生のピアノ演奏を間近で見られる貴重な機会として、宮内庁担当の記者も楽しみにしている取材です。

この日は、世界的な音楽家であるチェロ奏者のウォルフガング・ベッチャーさん、
バイオリン奏者のウェルナー・ヒンクさんと一緒に、セレナードを含む計5曲を演奏。
ピアノを演奏する皇后さまの姿を初めて見ましたが、軽やかな指さばきで情緒豊かな音色を奏でる一方、
時に力強いタッチで迫力ある演奏を繰り広げる様子に驚きを隠せませんでした。
曲に合わせて体でリズムを取り、ほおを紅潮させて演奏する姿からは、気迫やすごみさえ感じるほど。
皇后さまは、持病の頸椎(けいつい)症性神経根症による肩や腕の痛みなどに加え、
冠動脈が細くなって心臓に十分な血液が行き渡らない「心筋虚血」の症状が判明していますが、
そうしたことを一切感じさせない姿でした。

また、熱心で努力家の一面も。ベッチャーさんからテンポに関する指摘を受けると、すぐに楽譜に書き込み、
「難しいわね」「何度か練習させて頂いて」などと話しながら、繰り返し練習する様子が印象的でした。
レッスン風景の撮影時間が迫っても、「まだ撮らないで頂いて」
「もう一度やってよろしい? ちょっと私がよく分かってないの」などと、
自身が納得するまで練習を重ねていました。完璧主義で知られる天皇陛下の影響もあるのかもしれません。

レッスン時間の終了が迫る中、撮影に臨んだ皇后さまの演奏は、練習の成果もあってか、
これまでで一番すばらしいものに感じました。演奏後、ほっとしたような笑顔が印象的でした。
今回は思わぬアクシデントもあり、例年は20〜30分の取材時間が、
練習時間の約1時間20分すべてを取材する幸運に恵まれた報道陣。
最後にさらなるサプライズが待っていました。
皇后さまが報道陣に近寄り、「失礼しました。ちょっと手違いがあって」と声をかけてくれたのです。
こういうところが、皇后さまが尊敬され、愛されるゆえんだと感じました。

天皇陛下が生前退位の意向をにじませるお気持ちを表明してから初の静養は10日間と例年より長めでしたが、
宮内庁幹部の「両陛下にはぜひごゆっくりして頂きたい」との配慮もあったと思われます。
静養中は、長野県上田市の養蚕の歴史に関する資料館や製糸場を訪れた両陛下。
毎年、皇居で養蚕に取り組んでいる皇后さまにとっては、大変有意義な静養となったことでしょう。

     ◇

8月27日には、秋篠宮家の長女眞子さまが東京・有楽町で開かれた
「第33回全国高校生の手話によるスピーチコンテスト」に出席しました。
式典で、眞子さまは手話であいさつに立ちました。
スピーチは5分弱に及びましたが、すべて手話を交え、
堂々とした姿に観客は大きな拍手を送りました。全文を以下に紹介します。

「第33回全国高校生の手話によるスピーチコンテストの開催にあたり、
みなさまにお会いできましたことを大変うれしく思います。
この手話によるスピーチコンテストは手話の普及と福祉教育の推進を目的として
昭和59年(1984年)に始まり、青少年の手話への関心を高める上で大きな役割を果たしてこられました。
これまでに出場された方々が医療、教育、福祉など、様々な分野で手話を使い、
聴覚に障害がある人々の生活を支えるために活躍されているとうかがい、
コンテストの深い意義を感じております。
本年4月に熊本県を中心に大きな地震が起こりました。
このような災害のとき、被災地で聴覚に障害がある人々は
避難所に行っても場内のアナウンスが聞こえず、必要な情報が得られないこと、
外見からは聞こえないことが分かりにくいため支援の手が届きにくいこと、などがあったとうかがいました。
このような困難の中で手話通訳者や相談員、手話を学んでいる人々が
被災者のために活躍されたことは大変心強く思っております。
手話が広がることによって私たちの交流の幅が広がります。
このことはみなが安心して暮らせる社会を作り上げることにつながっていくのではないでしょうか。
このコンテストを含む様々な活動を通して
大切な言葉である手話に対する理解がより一層深まることを願っております。
本日全国より選ばれた10人の高校生が心に響いたことば、
または未来の社会へ、というテーマでスピーチをされます。
発表されるみなさまがご自分の思いや考えを豊かな手話で表現なさるのを楽しみにしております。
長年にわたりこの手話によるスピーチコンテストの開催に尽力された方々に
敬意を表しますとともにこの大会がみなさまのよい思い出となることを願い、私のあいさつといたします」

発表者に向けた後半部分では、眞子さまは10人の高校生に体を向け、
激励するかのようにメッセージを送っていたのが印象に残りました。

眞子さまは2014年8月の第31回コンテストにも出席しています。
この時、初めて手話を交えてあいさつし、「手話デビュー」として話題になりました。
この際は途中で手話通訳の女性にお願いして自身の手話を中断する場面もありましたが、
「しばらくの間、手話通訳にお願いします」と通訳者に頭をさげる姿にはやさしい人柄がにじみ出ていました。
あいさつは4分半に及びましたが、うち1分半近くが手話。
やり遂げた後のほっとしたような笑顔が印象的でした。
眞子さまの妹、佳子さまも手話を勉強しています。2015年9月には、鳥取県米子市で開かれた
「第2回全国高校生手話パフォーマンス甲子園」(朝日新聞厚生文化事業団、朝日新聞社など後援)で
あいさつに立ち、初めて手話を披露しました。
「手話に対する理解と、聴覚に障害がある方々に対する理解が一層深まるとともに、
大会が素晴らしい思い出となりますことを願います」とあいさつし、すべて手話で表現しました。
9月下旬に開催される第3回大会でも、佳子さまは手話を披露する予定だそうです。
(宮内庁担当 多田晃子、島康彦)

http://www.asahi.com/articles/ASJ8X5G0RJ8XUTIL01C.html


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